近年HSPことHighly Sensitive Person(敏感過ぎる人)という概念が話題になっています。
これはユング派の心理療法家であるエレイン女史が提唱した考え方で、その著作がヒットしたことで一般に認知されるようになりました。
HSPはその過敏な気質のためストレスに晒されやすい傾向があり、特に現代社会においては生きづらさを抱えてしまうケースが多く見受けられます。HSPという用語の流行は、それだけ多くの人々が自身の過敏な気質に悩んでいたことの表れでもあります。
ですが、言葉だけが一人歩きしている現状に警鐘を鳴らす人がいます。
“愛着障害“研究の第一人者である精神科医の岡田氏は、それまで医学の世界で無視されてきた過敏な特性にまつわる問題を、HSPという概念によって一般にわかりやすく説明したエレイン女史の功績を認めつつも、「敏感過ぎる」という特徴のみで一括りにされている実情の危険性を説いています。
それは、たとえて言うならば、「熱が高い」というたった一つの症状から、ひとまとめに「熱病」といった診断を下し、同じ一つの対処法を教えるようなものです。
『過敏で傷つきやすい人たち』幻冬舎新書 岡田尊司著 P8
岡田氏は同じ敏感過ぎるという症状でも、遺伝的体質や生育環境、あるいは神経系の問題など様々な要因が考えられると言います。
その言葉通り、同氏の著書『過敏で傷つきやすい人たち (幻冬舎新書)』は、科学的根拠や治療を重視した内容となっています。同時に、実は自身もHSP気質であると言う岡田氏が、HSPに寄り添ったスタンスで分析を進めているのもこの本の特徴です。
HSPの原因追求と克服を目的とした『過敏で傷つきやすい人たち 』の内容と魅力をまとめていきます。
HSPの特徴である過敏性を分析する

同書はHSPの最大の特徴である「過敏性」を症状として捉え、詳細に分析しています。
一口に過敏と言ってもその症状は人により様々で、匂いに敏感な人もいれば味覚が過敏な人もいます。
また同じ人物の聴覚という点においても、大きな音に驚く一方で他人の言葉がうまく聞き取れないなど、敏感さと鈍感さが共存しているケースが多く見られます。
したがって同書では過敏性とは何かという部分の分析から開始しています。
過敏な部分と鈍感な部分のバラつきを分析することで、自身の特性や原因、治療や克服の方法を知るヒントを得ることができます。
過敏性のメカニズムと表れやすい症状

次に同書では、過敏になっているとき、体内でどういった反応が起きているのかを解説しています。
メカニズムを理解することで自身の過敏さについて客観的に考えることが可能になります。
加えて、過敏性が強い場合に心身に表れる症状と生きづらさや幸福度との関連を調査結果から得た数字を交えて解説しています。
HSPの過敏性の原因として考えられる2つのこと
過敏という症状は様々な要因で表れます。
過敏性は、さまざまな疾患や障害に伴って表れますし、病気や障害がなくてもよく起きる状態、たとえば睡眠不足や過労、二日酔いによっても強まることが知られています。
P107
そのなかで過敏性と特に関連の強い2つの障害が挙げられています。過敏性が診断基準の1つとなっているこれらの障害を分析することで、過敏性そのものの理解に繋がると思います。
発達障害とHSP
発達障害を代表する自閉スペクトラム症は、過敏性と深い結びつきがあります。
最新の研究によって、発達障害の基本的な原因は神経の発達の異常に伴って起きる感覚処理障害である可能性が指摘されています。
感覚処理障害は、
・感覚が極端に過敏または鈍感
・匂いを判別できないなど外部からの情報が上手く入ってこない
・所謂運動音痴になる
などの症状が見られます。
こういった症状のため、発達障害を持つ人は他人とは違う独特の世界に生きており、それが社会生活を営むことを難しくしていると言えます。
これはHSPにも言えることで、自分の感覚の特性を正確に理解することが、生きづらさの克服に繋がると考えることができます。
愛着障害とHSP
過敏性は養育環境が原因となる愛着障害とも強い関連があります。
愛着障害による症状として、
・自律神経の異常
・ストレス耐性の弱さ
・他人に対する過敏性
などがあります。
これらの症状はHSP診断の基準になる項目と酷似しており、HSPの根本的な原因を探るうえで欠かせない要素であると言えます。
HSPの克服

『過敏で傷つきやすい人たち』の後半は過敏性の克服や治療に関して書かれています。
医師である著者による必携の1冊。
自身の過敏な気質に悩まれている方は是非一読してみることをおすすめします。