『母という病』は日本における愛着障害研究の第一人者である精神科医、岡田尊司氏によるベストセラー。同書は生きづらさ――特に人間関係や精神的な面における問題を母親との関係に焦点を絞って書かれた本です。
母親を”病“と表現するタイトルの衝撃もさることながら、作中でも”十字架“と表現するなど、いわゆる「母親神話」とは対極に位置する同作。
母との関係に悩む人、得体の知れない生きづらさを感じている人は必読です。
母親が「病」になる
『母という病』というタイトルの通り、同書は親子関係――延いては母親の存在そのものが子どもにとって「病」になってしまう問題について医学的な観点から解説しています。
子どもは生まれて間もない頃から母親の影響を強く受けます。特に「母親からどれだけ愛情を注いでもらえたのか」という点は非常に重要です。
母親から適切な愛情を得ることができなかった子どもには適切に愛情を注いでもらえた子どもたちとは異なる特徴が現れると言います。例えば、
・不安を感じやすい
・自己肯定感が低い
・情緒不安定になりやすい
といった一見性格の問題と見なされやすいものばかりでなく、発達障害である「ADHD」の症状を示す子どもも多いと同書は指摘しています。
母という病は生涯に渡って影響する
この「病」はその人の生涯に渡って影響します。
そして病という表現はあながち誇張ではなく、母という病によって積み重なった生きづらさがいずれパーソナリティ障害や他の精神疾患へと繋がってしまう危険性があると同書は指摘しています。
この病は風邪のように咳や熱が出るというわけではないため、症状や原因を本人が自覚しづらい点は特に厄介と言えるでしょう。自分では精一杯生きているつもりなのになんとなく人生が上手くいかない、生きづらい、といった結果や感覚だけが残ってしまうからです。
そんな母という病について詳しく書かれているのが同書になります。
『母という病』はこんな本
同作者の他の著書と同様、本作も実際にあったケースを紹介しながら母という病を細かく分析しています。事例の人物も一般人から母親との関係に悩んだ偉人の例まで多岐に渡り、様々なケースを学ぶことが可能です。また偉人の例などは症状や病を抱えることになった経緯がイメージしやすいうえ、興味が湧いた人物に関してはそれが作家であれば著書を読むことでさらに理解を深めることができるでしょう。
大抵この手の本はどこか漠然としたある種の自己啓発本のような内容になりがちです。しかし同作者は医師であるため、医学的な解説を交えながら具体的に解説してくれています。その部分は『母という病』の最大の強みと言えるでしょう。
『母という病』は親子関係に悩む人や生きづらさを抱いているすべての人におすすめ
母親との関係は本人に自覚がなくても生涯に渡って影響します。
なにもかも親のせいなどと極端なことを言うわけではありませんが、生きづらさのルーツを探っていくうえで親子の問題はどうしても避けることができません。
特に現代社会では親子関係というのものがとても複雑になっています。
『母という病』は多くの人に読んでいただきたい一冊です。